漫画家・タワシさんのエッセイ漫画
『生きるのがしんどい女が「死ぬまでにやりたいことリスト」を消化していく話』。
これがめっちゃよかった。
タイトルからもうだいぶ察するものがあるんですけど、ざっくり言うと「生きづらいタイプの作者さんが、昔書いた“死ぬまでにやりたいことリスト”を実際にやってみる」というエッセイ漫画です。
作者さんは、35歳独身。ほぼ無職。自称イラストレーターだけど、仕事はあまりしていなくて貯金を切り崩して生活している。友達もいない。帰れる実家もない。働く気力もない。何もしたくない。未来も見えない。
なかなかしんどい状態だわね…!
そういうときって、SNSを見るのもしんどくなったりするじゃないですか。
同年代の知人がバリバリ働いていたり、タワマン買ったよとか、子どもがいい幼稚園に受かったよとか。
普段の心持ちなら「よかったね」と思えるようなことも、自分が落ちているときはマウンティングに見えちゃったりする。
そういう、ちょっとネガティブで引きこもり気味になっていた作者さんが、
「このまま生きててもしょうがないし、昔書いたやりたいことリストでも消化してみるか!」
みたいな感じで、ものすごく重い腰を上げていく話です。すげぇ
キラキラ自己啓発じゃないところがいい
私がこの本を面白いと思った一番のポイントは、全然盛らないところ。
だいたい「やりたいことリストを叶えました」系の自己啓発って、
「人生が劇的に変わりました」
「なんでもっと早くやらなかったんだろう」
「皆さんも絶対やった方がいいです」
みたいな、ちょっとキラキラした結論に持っていくものが多い気がするんですよ。
もちろんそれはそれでいいんだけど、正直たまに「ほんまかいな」と思うこともある。
なんか圧が強いというか。
変われない自分が悪いみたいな気持ちになるというか。
でもこの本は、かなり実直なレポートでした。
やりたいことを実際にやってみる。
でも道中で普通に嫌になる。
「これ、やりたいことだったはずなのに、なんでこんな嫌々やってるんだろう」みたいなところまで描く。
そして、やった結果も無理やり感動にしない。
「やってよかった!」で全部を回収しない。
「本当にこれはやりたかったことだったのか?」という疑問まで、そのまま書いている。
この誠実さがかなりよかったです。
淡々と叶えて、淡々とレポートする。
過程も結果も盛りすぎない。
だからこそ信用できる。
しんどいのに、ちょこちょこ可愛い
あと、作者さんがちょこちょこダジャレを挟んでくるのもすごく好きでした。
内容としてはかなりしんどい話も出てくるんだけど、その中に変なキャラクターや言葉遊びが出てくる。
「この人、根がめちゃめちゃ面白い人なんだろうな」と伝わってくるんですよ。
自分ではネガティブで、引っ込み思案で、友達もいないみたいに書いているんだけど、一コマ一コマに遊び心がある。
キャラクターがかわいい。
言葉の選び方がかわいい。
読んでいて全然飽きない。
しんどい人がしんどいことを描いているんだけど、ただ暗いだけではない。
人柄の良さというか、根っこのおもしろさがじわじわ出てくるエッセイでした。
やりたいことリストの中身も面白い
作中で実際にやっていくリストも、ひとつひとつ面白いんですよ。
たとえば、
スカイダイビングをする。
ひとりでアフタヌーンティーに行く。
友達をレンタルして原宿にクレープを食べに行く。
断食道場に行く。
世界一甘いお菓子を食べる。
滝に打たれる。
などなど。
この「友達をレンタルして原宿にクレープを食べに行く話」とか、かなり気になりませんか。
そもそも友達をレンタルするのにいくらかかるか、普通に生きていたら調べないじゃないですか。
作中では、友達を借りるのに1時間いくらかかるのか、交通費や飲食代はどうするのか、結局クレープを一緒に食べるのにどれくらいかかるのか、そういう細かいところまで出てくる。
これが面白い。
クレープを食べるだけなのに、普通のクレープじゃない。
「友達をレンタルして食べるクレープ」になる。
その時点で、もう体験としてかなり濃い。
これからは一次体験がもっと貴重になる
この本を読んで思ったのは、やっぱり一次体験ってめちゃめちゃ貴重だなということ。
今はAIに聞けば、正解っぽいものはかなり返ってくる。
情報も整理してくれる。
それっぽい答えも出してくれる。
でも「友達をレンタルして原宿でクレープを食べてみたらどうだったか」みたいな体験談は、AIが勝手に弾き出せるものじゃない。
実際にやった人の、実際の身体感覚。
気まずさ。
思ったより楽しかったこと。
やってみたら意外とそうでもなかったこと。
お金を払ってまでやる価値があったのかという微妙な感触。
そういうものって、やっぱり体験した人にしか書けない。
だからこのエッセイ漫画は面白いんだと思います。
自分の「やりたいこと」も、書き出すと見えてくる
私も実は、やりたいことリストみたいなものを作っています。
いろいろ書き出して、少しずつ叶えてはいるんだけど、書き出してみると「これ本当はどうでもよかったな」みたいなものも結構見えてくるんですよね。
たとえば旅行。
世界中のいろんな国に行きたいと思って、行きたい場所やそこでやりたいことを大陸別にバーッと書き出したことがあります。
マインドマップにしたら、めちゃめちゃ気持ち悪いくらい膨大になった。
でも書き出してみて気づいたのは、私の場合は「どこに行きたいか」より「誰と行くか」の方が大きかったということ。
別にひとりでその場所に行きたいわけじゃなかった。
その場所そのものに、思ったほどワクワクしていないこともあった。
一方で、今度友達と旅行に行く計画があるんですけど、それはめちゃめちゃ楽しみなんですよ。
たぶんそれは、場所がどうこうというより「その友達とそこに行くこと」が楽しみだから。
こういうのって、頭の中だけでぼんやり考えていてもわからない。
書き出してみる。
実際にやってみる。
お金と時間をどれくらい使いたいのかを考えてみる。
そうすると、自分が本当に欲しいものが少し見えてくる。
小さい願望は、さっさと叶えた方がいい
この本を読んで、サクッと叶えられることはどんどん叶えた方がいいなと思いました。
やりたいことリストって、大きい夢だけじゃなくていい。
小さいやつでいい。
ちょっといいお茶を飲みに行く。
行ってみたかった店に行く。
気になっていた体験を予約する。
ひとりで何かをしてみる。
誰かとどこかに行ってみる。
小さい願望なら、少しのお金と時間で消化できることもある。
そして実際にやってみると、
「やっぱり好きだった」
「思ったよりどうでもよかった」
「これは誰かとやりたかったんだな」
「私は体験そのものより、そこにいる人が大事なんだな」
みたいなことが見えてくる。
やりたいことリストは、夢を叶えるためだけのものじゃなくて、自分の欲望を仕分けるためのものでもあるのかもしれない。
劇的に変わらなくても、生きる理由にはなる
この本のいいところは、やりたいことを消化したからといって、人生が一気に救われるわけではないところです。
劇的に変わらない。
急にポジティブ人間にならない。
全部がハッピーエンドになるわけでもない。
でも、ちょっとだけ動く。
ちょっとだけ外に出る。
ちょっとだけ変なことをしてみる。
ちょっとだけ「まだやってないこと」が減る。
それくらいの変化が、むしろリアルでよかった。
人生を大逆転させるための本というより、
しんどいままでも、ちょっと変なことをやってみてもいいんじゃないかと思える本。
すごく誠実で、かわいくて、ところどころ笑えて、でもちゃんと刺さるエッセイ漫画でした。
われらもちょっとずつ叶えていきまっしょい!むん!










